11月29日(金)より開催する3人展「New Eden」に出展する岩岡純子。岩岡は、西洋美術の名画と現代の日本の風景を組み合わせる作品を手がけています。まるで名画の中の人物が現代の日本にタイムスリップして存在しているような独特の構図で展開され、歴史と現代の文化的なギャップを巧みに探求しています。創作のきっかけや歴史的・現代的なモチーフの選び方などをお聞きしました。
岩岡純子 Sumiko Iwaoka
― 作品をつくりはじめたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
自分が作ってるものを作品として意識し始めたのは大学の頃ですが、小学校の時の落書きや工作も、やっていることは変わりません。
私の中で「作品」は「課題」で作ったものと違うと思っていて、中学・高校・予備校までは課題に応える形で描いたり作ったりしていたのでそれは作品と思えていなくて、大学に入り自分でテーマを決めて制作したものを作品と思っています。小学生の頃の落書きや工作も、思えば自分から進んで作っているので同じことかもしれません。
― アーティストを志したきっかけは何でしたか?
美術の時間が好きだったことや、高校生の時に図書館で見た沢山の画集から影響を受けてアーティストを志すようになりました。
― 作風が確立するまでの経緯を教えてください。
長くなりますが笑
大学時代は油絵は描かず、「アンチエイジング」や「見る・見られる」ことに興味があり、『顔のたるみをとる器具』や『人間充電器』等の機械を実際に体感してもらう作品を作っていました。アンチエイジングの観点から美人画に関心が湧き、ファッション雑誌に載っている「美人を作る方法(メイク術やファッションコーデ)」は短期間で流行が変わっていくのに対して、名画の美人画は世間の美の変化をもろともせず価値づけされていることに違和感を覚え、美人画に現代のファッション誌を見ながらファッションチェックする作品『TESTシリーズ』(2010年〜)を作りました。
その後、西洋美術館の前でヌードの絵画ポスターを前に自慰行為する男性を目撃したことから、ヌード絵画(なぜ女性のヌード絵画が多いのか)への関心が出てきて、本から切り抜いたヌード絵画に裸を隠すように鉛筆で水着を描き足す『水着シリーズ』(2013年〜)が始まりました。
近年では本で名画を見る機会が増え、西洋美術の名画に日本の風景画がないことを感じ、本から名画を切り抜きコラージュし、名画の人物が現代日本にタイムリープするシリーズ(2017年〜)を作り始めました。少しずつ名画に興味を持ち始めたのですが、常に名画と現代との比較があるように思います。
― 作品における伝統的な要素や現代的な解釈について、どのようなバランスを意識していますか?
名画を引用することが多いので、なるべく時代背景や描かれている内要を頭に入れるようにしていますが、その反面フラットな気持ちで現代と比較して名画を見て制作するようにしています。
― アーティストステートメントについて教えてください。
西洋美術における名画への憧れと、それに対して凡庸な自分の眼差しを画面の中で交錯させることで、現代に生きる自分が絵画を描く意味を探求しています。
― 作品はどのように制作していますか?技法について教えてください。
名画の人物が現代にタイムスリップしているような作品(タイムリープシリーズ)では、本を集めるところから始め、本から名画を切り抜きキャンバスにコラージュして、油絵で描いています。ドローイング作品ではアクリルを使うことが多いです。
― 歴史的・文化的なモチーフを選ぶ際の考え方や、その背景について教えてください。
わたしは名画の実物よりも画集で見ている時間の方が長いです。なぜなら、当然ですが家には本物の名画がないですし、日本の美術館では限られた作品や、限られた時間しか名画を見ることができません。ですから本で見て学ぶことが多いのですが、その環境や慣習こそが私が日本に住む日本人であり、西洋美術と隔たりを持っていることを痛切に感じるのです。
歴史的な背景も宗教的なことも、完全に理解できていないと思っていますが、本であれば自分の時間でじっくりと向き合い、考えたり調べたりすることが出来ます。おそらくそれが、本からモチーフを選ぶ理由になっているのだと思います。
― 今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
日本の絵巻物を見た時に、横にスライドして絵が続いていく描き方に驚きました。遠近法が西洋絵画とまるで違うからです。西洋の描き方に慣れていて、日本にいながら絵巻物の遠近法がよくわかりません。絵巻物のレプリカを買ってあるのでいつか研究したいです。
― グループ展「New Eden」では、どのようなコンセプトで展示プランを構成されましたか?
名画の中の人物や静物から考えを巡らせた作品構成にしています。
今回の展示では、リンゴに焦点を当てるところからプランを作り始めました。よく西洋絵画ではリンゴが登場しますが、アダムとイヴが手にしていたり、静物画でもモチーフに描かれることがあります。美術を学ぶ過程でわたしもリンゴのデッサンや油絵を描く機会は沢山ありましたが、私にとってのリンゴといえば、スーパーで買うもので、デザートであり身近なもののイメージが強いのです。
美術の世界にまつわる歴史・宗教的アイコンであるリンゴと、自分の生活に身近なリンゴを比較や並列するような作品から、消費社会を示唆するような構成にしました。
また直線的なコンセプトではこの複雑な世界を捉えきれないと思い、寓意画から現代を考えるような試みの作品を用意しています。
岩岡純子 Sumiko Iwaoka |
「New Eden」
2024年11月29日(金) ~ 12月21日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日11月29日(金)は、17時オープンとなります。
※オープニングレセプション:11月29日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat
〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト秋山あいれ、岩岡純子、久木田大地によるグループ展「New Eden」を開催いたします。「New Eden」では、西洋絵画の伝統的な技法や具象的な表現を現代アートのコンテクストに落とし込みながら新しい表現を追求されているアーティスト3名の作品を展示いたします。